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大化改新の方程式(130) 皇極紀にみる「皇帝祭祀」の記録の断片

私のトンデモ説の大風呂敷はさらに広がる予定だが、その前に2つの点で前回の自説を補足しておきたい。

1.なぜ日本書紀は皇極天皇の「皇帝祭祀」を記録していないのか?
2.「新たな皇統の始まりを演出する」という皇極天皇の思想はどこから来たのか?

まず、第1の点について。
実はまったく記録がないわけではない。以前触れたように皇極元年11月の新嘗の記述がそうだろう。
さらにまた、中国での「皇帝祭祀」は冬至だけではない。正月や夏至での天地に向けた祭祀、また宗廟での先祖に対する祭祀もある。頻度は王朝によってちがいがあるが、唐代には大掛かりな祭祀だけでも年に10回以上あったという。
その意味では、日本書紀の皇極元年11月の夏令、2年2月・3月の冬令に関する記事にも注目したい。これらは季節にそぐわない政治を行ったことが天候不順の原因だとする批判めいた記事だが、こうした「時令思想」にもとづく記事は皇極紀にしかみられないという。
私にはこれらは皇極によるさまざまな「皇帝祭祀」の強引な導入が人びとに戸惑いを与えたことを示唆しているようにみえる。

思うに、遣隋留学組の助言を得ながら、皇極天皇こと宝姫王は倭国流にアレンジした「皇帝祭祀」の数々を試行錯誤的に導入しようとしたのではないか。
新嘗祭のように、それまでの倭国では収穫祭的な位置づけであったものに「皇帝祭祀」としての特別な意味づけを施すなど、祭祀のあり方を大きく変える試みを行うこともあったろう。

前回とりあげた皇極3年11月の記事(甘樫丘・畝傍・大丹穗山)のあとに続く、4年正月の記事で「伊勢大神の使い」が唐突に登場するが、これも天を祀る「皇帝祭祀」において日神としての「伊勢大神」(後年のアマテラス)を祀ったことが断片的に記憶されたものと解することができよう。
興味深いのは、このとき猿のなく声が山の峰、川べり、宮寺の間から聞こえていたという。
中国の「皇帝祭祀」には儀礼上舞楽がつきものだった。皇極もそれに倣ったところ、祭祀に直接かかわらない人々のあいだで「奇妙ななき声」としてうわさされたものが伝承として残ったのではないだろうか。

日本書紀において多くの祭祀の痕跡が「奇妙な出来事」として記述されているのは、すべての祭祀に大王が出御しているわけではないことも影響していると思われる。
ここでも中国の「皇帝祭祀」の形式が参考になろう。年10回以上もある祭祀すべてに皇帝が直接司祭(親祭)するのは無理なので、たとえば唐代では有司が代行すること(有司摂事)が前提となっていた(『古代中国と皇帝祭祀』金子修一 pp.76-77)。
ちなみに桓武天皇が行った2回の「皇帝祭祀」のうち2回目は有司摂事で挙行されている(1回目は不明)。
皇極天皇も同様に蘇我大臣に祭祀を代行させたこともあったであろう。
事情のわからぬ人々のあいだでは、蘇我氏が越権的になにやら訳のわからない儀式を行っていたという同時代的な証言が残されていたとしても不思議ではない。皇極2年2月に、冬令の記事のあとに続く蘇我蝦夷と巫覡(ふげき)との奇妙なやりとりの描写もそうした類ではないだろうか。

こうした時令の記事や「奇妙な出来事」の数々がなんの脈絡もない断片的な記録として映るのは、肝心の「皇帝祭祀」の具体的な描写がすっかり抜け落ちているからだ。
その理由はいうまでもない。大王主導の祭壇造営や祭祀の内容を蘇我父子の悪行として書き換えることが日本書紀の編集方針だったからである。

ただ、そうだとしても、祭祀の模様だけでも記録されるべきではなかったか。
ここにはもう1つの編集方針がからんでいるように思える。
すなわち、「舒明天皇から新たな皇統が始まる」という点を強調しないということだ。
とはいえこれは、古事記や日本書紀における神話の体系そのものに関わるテーマなのでいまは深入りを避けておきたい。
ただ今後のためにメモしておけば、「飛鳥の聖地化」とは後年の用語を借用するなら「飛鳥の高天原化」なのであり、それは天武や持統に受け継がれていったはずだ。そして、その思想が古事記、日本書紀を経る過程でどのように変容していったか、そこに、宝姫王の“偉業”を歴史の片隅に追いやり、封印した理由があるのではないだろうか。
いまは明確な回答が用意できないが、これについては今後(このトンデモ説に命脈あるかぎり)詰めていきたいと考えている。

コメント

No title

1.なぜ日本書紀は皇極天皇の「皇帝祭祀」を記録していないのか?
→大王主導の祭壇造営や祭祀の内容を蘇我父子の悪行として書き換えることが日本書紀の編集方針だったからである。
→「舒明天皇から新たな皇統が始まる」という点を強調しない

2.「新たな皇統の始まりを演出する」という皇極天皇の思想はどこから来たのか?
→ ?

最後まで面倒見てくれないと泣いちゃうぞ~。

Re: No title

梅前様

毎度です。

べつに煙に巻くつもりはないのですが・・・

次回更新にご期待くださいませ

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