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大化改新の方程式(140) 聖地「交野」

桓武天皇にとって交野がいかに重要だったかは、「交野山頂から真北に線を引くと、長岡京の中軸線とほぼ重なる」(『日本の道教遺跡を歩く』(福永光司・千田稔・高橋徹) p.155)という事実から推測できよう。
千田氏は「交野は桓武天皇にとって天武・持統両天皇の山川祭祀の場であった「吉野」と同じ場所、すなわち神仙境、あるいは神仙境にもっとも近いところと考えられたらしい」(同 p.152)とし、その背景として、乙訓や交野にはその周辺に住み着いた渡来人の星にまつわる信仰や伝承(七夕伝承)が多いことをあげている。

ただ私は、この交野山は渡来人が住み着くずっと以前から先住民たちが雨乞いなどの儀式で崇める聖地であったと考えている。
そして、この山を聖地とみる人々のなかに中臣氏やその同族がいたのではないだろうか。
以下の3Dシミュレーション画像でわかるように、摂津方面から望むとき、交野山は標高は低いながらかなり目立った形状をしているのが見て取れよう。
百済寺_交野

なお、この3Dは枚方市の百済寺跡からの冬至の日の出をシミュレートしたものだが、百済寺を起点にしたのには理由がある。

桓武天皇が延暦4年「天神を交野の柏原に祀った」とされる“柏原”の祭壇がどこなのか、伝承をたよりにいくつか候補があるようだ。石清水八幡宮近くの「交野天神社」は、その名から、また継体天皇の樟葉宮であったという由緒から、もっとも有力だと思われるが、冬至の太陽の位置にこだわる私にとって興味深いのは、薬師寺慎一氏が推す百済寺(枚方市)だ。

薬師寺氏は「ある地域の古代を考える時、その地域で最も聖なる山を中心に据える」という方法、すなわち「初めにその地域で最も聖なる山はどの山かを定め、しかる後に、その山を中心にしてその地域の古代史がどのように展開されたかを考える」こと(『聖なる山とイワクラ・泉』(薬師寺慎一) p.60)が有効だとして、西日本のさまざまな霊峰、神社、仏閣を訪ね歩き、その聖地たるゆえんをこの手法で解き明かしている。
そうした手法がどの程度学会で評価されているかはわからないが、交野の祭祀場所についていえば、ひとたび交野山を聖なる山としてみなすことができれば、冬至における太陽の位置および桓武と渡来人との関係(百済寺は百済王氏の氏寺)から、百済寺を祭祀場所として比定するのは合理的な推理だろう(ただし、百済寺は750年ごろに建立されたので、すでに伽藍が配置された境内に祭壇を設けるスペースがあったのかどうかは疑問である)。

ところで、藤原鎌足の墓とされる阿武山古墳から交野の風景をシミュレートすると以下のようになる。
阿武山古墳_交野
阿武山古墳の被葬者が鎌足だと確定したわけではないが、すくなくともその周辺は中臣氏ゆかりの地であり、彼らにとっても交野が聖なる山であったことは想像に難くない。

余談であるが、前述の薬師寺氏は、冬至の日に香久山の方角から昇る太陽と畝傍山の方角に沈む太陽を同時にみることができる場所に、天武天皇が藤原宮の大極殿の位置を定めたという推理をもとに、天武天皇は「冬至の太陽祭祀」を行おうとしたのではないか(存命中に実現はかなわなかったが)と主張している(『聖なる山とイワクラ・泉』(薬師寺慎一) pp.26-27)。
私の場合は、すでに皇極期の宝姫王がそうした「冬至の太陽祭祀」を念頭においた聖地づくりに着手しており、そのビジョンは天武や持統に受け継がれたものと考えている。


<追記>
今回の記事を書くにあたっていろいろと調べていたら、大学院生の論文かと思われるが『民間伝承の地域的特性に関する歴史地理学的研究-交野ヶ原における天体伝承を事例に』(中村好恵)という論文をネット上で閲覧することができた。
今回触れた桓武天皇の祭祀場所の比定地にかかわる部分を含め全編にわたり示唆に富む内容であるが、秦氏について興味深い指摘があったので、今後の参考に書き留めておこうと思う。
・上記で「長岡京の中軸線は交野山を通る」としたが、正確には交野山の南南西にある龍王山を通過している。
・龍王山は古来より嬰児山と呼ばれ、秦河勝の生誕に関わる地名である。
・この中軸線を北に伸ばすと、秦氏の拠点である太秦・広隆寺に至る。

以下は、私のトンデモなつぶやきにて、中村氏の論文とは無関係であるが・・・・
・秦氏は本場中国で皇帝祭祀を始めた始皇帝の末裔とされる。
・長岡京遷都を推進し、交野の祭祀にもかかわった桓武の側近・藤原種継の母は秦氏。
・冬野のくだんの電波塔の隣に「波多神社」があり、同じ尾根づたいの地名に「畑」があり、秦氏とのかかわりを想起させる。
(とりあえず、メモとしておき、これ以上の妄想は控えておこう)

<追記2>
中村氏の論文へのリンク先が間違っておりました。お詫びして訂正いたします。

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