FC2ブログ

大化改新の方程式(169) 『倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア』からの示唆

衝撃的な本に出合った──この1月に刊行されたばかりの『倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア』(河内春人)だ。
中国・朝鮮の文献を緻密かつ丁寧に読み込んだうえで、記紀に依拠した五王の比定をしれっと切り捨てる論法は痛快だ。これから先を論じたいのなら、古市や百舌鳥の古墳を暴くしかないでしょう、と言っているようなものだ(もちろん河内氏はそんなことは一言も放っていないが…)。

ただ、“衝撃的”だったのは、河内氏が通説に果敢に挑戦していることではなく、“当確”と思われていた「倭王武=雄略天皇」がおぼろげになってしまったことでもない。

私にとって問題の箇所は、実は、5世紀の大王たちではなく、7世紀の高向玄理こと高向黒麻呂にかかわることなのだ。
しかも、これから展開しようとしていた自説における弱点をピンポイントで突かれてしまった。
私には2重の意味で衝撃的だったわけだ。

ところで、前回拡充した年表は、決して、苦し紛れに作成したものではない。
黒麻呂の思想と行動を分析するにあたって、重要と思われる出来事を書き添えたのである。
あらためてその部分を抽出すれば…

---646年---
【9月】倭国が高向玄理(黒麻呂)を新羅へ派遣。「任那の調」を廃止する代わりに「人質」を倭国に差し出す交渉をまとめる
---647年---
【この年】倭国から新羅へ派遣されていた高向玄理(黒麻呂)、「人質」として金春秋をともない帰国
---648年---
【閏12月あるいはこの年】新羅の金春秋とその息子(金文王)が使者として唐に朝貢。金春秋が唐の太宗に新羅の苦境を直訴。金文王は唐の太宗の宿衛として唐に留まる
【この年】倭国、新羅の遣唐使に託して唐帝への上表文を届けさせた
---649年---
【2月】新羅の金春秋、唐から帰国
【5月】倭国、新羅へ遣使
【この年】新羅、金多遂を「人質」として倭国へ派遣

日本書紀にのっとれば、646年の「任那の調」の廃止と647年の「人質」金春秋の来倭とがバーターとなっているが、後者は金春秋に新羅援助の要請という交渉の機会を与えていると思われるから、決してバーターとは言えないだろう。

とすれば、高向黒麻呂は何をバーターとしたのか。

これまでの私の考えでは、それは、648年の「倭国、新羅の遣唐使に託して唐帝への上表文を届けさせた」ということであった。647年に来倭した金春秋は倭国の上表文を預かり、648年息子とともに唐への使者として入唐した際、その上表文を唐帝に渡したというストーリーだ。
つまり、金春秋は倭国のために大唐との橋渡しの役割を担わされたのである。

しかしながら、ここで2つの疑問が生じる。

1つ目は、上表文を託すという行為は外交儀礼上どのような意味を持つのか?上表文を託された国(新羅)は、委託国(倭国)からみて格下の国、つまり使い走りであるとみなされるのなら、たしかにこれはバーターといえよう。では、ほんとうにそう言い切れるのか?

2つ目は、どうして黒麻呂は上表文を新羅に託したのか?なぜ654年にすることになるように新羅道を通って自ら遣唐使として唐に赴かなかったのか?孝徳天皇は言うまでもなく中国の制度・文物の摂取を積極的に推し進める路線(以前私はこれを「唐真似路線」と呼んだ)を打ち出したのだから、早々に遣唐使を派遣するという選択肢もあったはずだ。

そして、『倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア』が教えてくれたことは、この1つ目の疑問に応えるものだったのである。

(次回に続く)

テーマ : 歴史 - ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

私の考え

私の考えはちょっと違っていて、

「上表文の取次ぎをした国」=その国を従えている国

と見なされたのではないでしょうか。
かなりさかのぼりますが、新羅が前秦に朝貢したとき(新羅初めての遣使)
高句麗の使節が随伴しました。
高句麗にとってそれは、「周辺国を従える大国」たることを
前秦に対しアピールするメリットがあったと思われます。

新羅の上表文も、そういう意味合いがあったのでは、と思うのです。
少なくとも「使い走り」ではなかったかと。
その意味では充分バーターたりえますね。

Re: 私の考え

梅前様

久しぶりのコメントありがとうございます。

先に言われちゃいましたね。

次回の話はまさにそのことなんです。
河内先生の本にある「重訳外交」。

> その意味では充分バーターたりえますね。

いえ、倭国にとってはダシに使われるだけなので、バーターになりません。

黒麻呂、お前はやっぱり新羅の工作員だったのか、と思われても不思議はないですね。

でもよくよく考えれば、おそらく黒麻呂の外交を通じて、倭国が当時一番必要としたものを手にいれたのではないか──。
次回以降はそんな話をしてみたいと思います。

コメントの投稿

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)