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大化改新の方程式(175) 白雉5年の遣唐使は予定外だったのか

ここで、2年続けて実施された白雉の遣唐使について、日本書紀と中国の史書(『唐会要』・『旧唐書』・『新唐書』)に残されている記録をまとめておこう。

<白雉4年(653年)の遣唐使(第2回遣唐使)>
[使節構成] 2船で構成
第1船:大使(吉士長丹)、副使(吉士駒)ら121人
第2船:大使(高田根麻呂)、副使(掃守小麻呂)ら120人
[渡航内容]
往路:出航は653年5月。ルート不明。第2船は薩摩沖で遭難(7月)
復路:第1船は654年7月に新羅と百済の送使と共に帰還
[中国側の記録] なし
[その他]
・道昭、定恵(中臣鎌足の長子)、道観(のちの粟田真人?)、安達(のちの中臣大嶋?)など留学僧・留学生ら多数乗船
・「西海使」と呼ばれる
・各船に「送使」が同行
・帰還後、唐帝・高宗に対面して多くの文書・宝物を得たことを賞され、大使・吉士長丹は「呉氏」を賜姓される

<白雉5年(654年)の遣唐使(第3回遣唐使>
[使節構成] 2船に分乗
押使(高向玄理)、大使(河辺麻呂)、副使(薬師恵日)
[渡航内容]
往路:出航は654年2月(あるいは5月)。新羅道を経て山東半島北岸に至る
復路:655年(斉明元年)8月帰還。ルート不明
[中国側の記録] 
『唐会要』:654年(永徽5年)12月、倭国が遣使して琥珀・瑪瑙を献じる。唐帝・高宗は詔勅をもって「倭国は新羅に近いので、新羅が高句麗や百済に領土を侵され危急の事態にいたれば、出兵しそれを救援すべき」と命じる
『旧唐書』:654年(永徽5年)12月、倭国が遣使して琥珀・瑪瑙を献じる
『新唐書』:永徽の初めごろ、倭国が遣使して琥珀・瑪瑙を献じる。唐帝・高宗は詔勅をもって、高句麗や百済に領土を侵されている新羅を救援すべく出兵するよう倭国に命じる
[その他]
・長安にて唐帝に拝謁し、東宮監門郭丈挙から倭国の地理・歴史について問われる
・高向玄理は客死
・大使・河辺麻呂、帰還するも褒賞の記録なし

解釈が大きく分かれるは、高向玄理を押使とした白雉5年の遣唐使が、もともと予定されたものか、それとも急遽編成されたものか、であろう。
もともと予定されていたものであれば、次の疑問は、どうして1年遅れで実施されたのか、であろうし、急遽編成された予定外のものであれば、その理由である。

後者の場合の理由として考えられるのが、白雉4年の第2船が難破したとの報告があったことを受けて、改めて組まれたという解釈だ。
しかし、これはないだろう。
白雉4年の遣唐使が2船構成でそれぞれに大使をおいたのは、一方が失敗した場合のリスクヘッジのためであろうから、難破は織り込み済であったはずだ。第1船の消息が不明である以上、同じ目的で使節を組むことはないであろう。
また、白雉5年の遣使船には留学生や留学僧が乗船している記述がない。その陣容からして白雉4年の穴埋めとは考えがたい。

では、ほかにどんな理由が考えられるのであろうか。
多分にフィクションの世界にはいるが、白雉5年の遣使は名ばかりで、実際には高向玄理らの亡命もしくは国外追放だったとみることもできる。
たしかに当時、中大兄一派(私は中心人物は宝皇女とみる)による飛鳥還都騒動があったように、孝徳政権内部に大きな確執があったのは確かだ。また、後に触れるが、遣唐使船建造とその運用のために国交断絶状態だった百済との関係修復が図られたことから、親新羅派の高向玄理には旗色が悪い政情になっていたはずである。
政争に敗れた玄理が新羅経由で出奔したというストーリーが描けよう。

きわめて魅力的な説ではあるが、亡命・追放の身の上の人間が唐帝に拝謁することができただろうか。
この説をとる場合、中国の史書(『唐会要』や『旧唐書』)にて654年(永徽5年)12月の出来事とされているのは、653年の誤りであったとするしかないだろう。つまり、琥珀・瑪瑙を献上し、唐帝に拝謁、東宮監門と問答を行い、新羅救援の命を受けたのは、すべて吉士長丹ら白雉4年の遣唐使の一行としなければならなくなるわけだ。
その可能性がないとはいえないが、『唐会要』や『旧唐書』の記述を疑問視するアラがあるとすれば、「確実に入唐したはずの653年の遣唐使の記録がない」というトートロジーもどきの理屈以外にない以上、説得力に欠けよう。
やはり、「653年の遣唐使の記録がない」という事実は、後でみるように、別の事情に求める必要がある。

以上のように、高向玄理を押使とした白雉5年の遣唐使が急遽編成されたという理由はなかなか見つからない。
では、それがもともと予定されていたとして、それがなぜ1年遅れの実施となったのであろうか?

テーマ : 歴史 - ジャンル : 学問・文化・芸術

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